QSE

原子核システム安全工学講座
量子保全工学分野 (渡邉・阿部 研究室)

研究の最前線から
過酷な環境下で金属材料に発生する劣化と損傷はどのように起こるのか、そのメカニズムに鋭くメスを入れる

応力腐食割れの発生・進展と停留メカニズムを解明

 現在稼働している原子力発電所の沸騰水型軽水炉1次冷却水再循環系配管には、応力腐食割れに強い低炭素ステンレス鋼が使われています。応力腐食割れとは、腐食を誘発する環境(高温・高圧の水など)と力学的負荷によって鋼材にき裂が発生・進展する現象のことで、実際のプラント検査では配管の溶接接合部で発生している例のあることが確認されています。そして、このき裂はなぜか溶接接合部の溶融境界付近で留まるか、進行が極端に遅くなる傾向にあります。

 応力腐食割れが溶融境界で停留する性質を持つのか。もし、そうであればその理由は何かを明らかにすることで、再循環系配管の安全性と寿命を評価する一定の基準が得られます。渡邉研究室では、溶融境界付近の組織的特徴に着目し応力腐食割れの発生と停留のメカニズムを解明しました。これにより、配管溶接部における検査手法の確立、劣化防止の新素材・新技術の開発へと結びつくことが期待されます。

地震動で生じる微小な変形を可視化新たな検査技法を確立する

 金属製プラント構造物に加わる地震動が、塑性変形(疲労損傷蓄積)を発生させる可能性があることは以前から指摘されていましたが、その高感度な検査方法は確立されていませんでした。渡邉研究室は、塑性ひずみを、電気化学的エッチングを利用して可視化することによって、感度の高い塑性ひずみ検査方法を可能にしました。

 長い時間をかけて進行する材料の劣化を実験室で再現することは、加速装置を使ったとしても、時間のかかる地道な研究の積み重ねが必要です。こうした成果の積み重ねがあるからこそ、損傷に強い素材の開発やプラント構造の設計、プラント運用時に発生するさまざまな損傷の兆候をいち早く見つけるための検出技術などが確立できるのです。原子力発電所の安全で安定した運用に寄与できるばかりでなく、過酷な環境下で稼働する機械や設備など、その応用分野は多岐にわたる、とてもやりがいのある研究なのです。

研究の最前線から

塑性変形に伴って形成される変形双晶(結晶中に形成された方位の異なる微小領域)を、定電位エッチングによってエッチング痕として現出させ可視化した

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